MKSのペダルは、なぜ「回る」のか。軸受けの5分類を読む
ペダルを指で弾くと、いつまでも回り続けるものがあります。あの差がどこから来ているのか。三ヶ島製作所が公表している軸受けの分類を、そのまま読んでみます。
ペダルの「回り」は、感想としては語られるのに、数字では語られません。 メーカーが回転抵抗を数値で出していないからです。 ただ、何がその差を作っているのかまでは公表されています。 MKS(三ヶ島製作所)は自社の製品を軸受けの機構で5つに分けて説明していて、 どのペダルにどれが入っているかも書いています。ここを読むと、 「なんとなく良い」がだいぶ具体的になります。
軸受けは5種類あります
同社の分類は次の5つです。上から順に、街乗りからトラックまで守備範囲が変わります。
カップ&コーン(ボール)ベアリング。ワン(カップ)の中の玉を、 玉押し(コーン)で押さえて回転を調整する機構です。同社は特徴を「耐久性が高くメンテナンス性が良い」と書いています。Sylvan Track やSylvan Touring がこれです。
高回転性能カップ&コーン。同じ機構ですが、組み付け前に各部品を研磨し、高精度なクロム球を使ったグレードだと説明されています。 トラックではRoyal Nuevoがこれにあたります。
トリプルシールドベアリング。根元に2つ、先端に1つ入っています。 3つで荷重を分散させて耐久性を保ちつつ、根元のベアリングを薄く作ってスタックハイトを抑えているとされています。Sylvan Track Next がこれです。
シールドベアリング&ブッシュ。先端がシールドで、根元はすべり軸受けです。 同社自身が「回転性能に関しては他機構に比べると劣る」と書いていて、 軽量化とコンパクト化のための構成だと明記しています。折りたたみ用などに使われる機構で、 当サイトが収録しているトラック用のペダルには入っていません。
最高級回転性能シールドベアリング。同社の呼び方をそのまま書いています。 入っているのはSUPREMEとRX-1の2つだけです。
「調整して出荷している」と書いてあります
面白いのはここからです。カップ&コーンの説明で、同社はわざと少しきつめに玉を当てて出荷していると書いています。 理想はガタがゼロで玉当たりを感じない状態ですが、その状態では玉の位置に遊びが出て 偏摩耗しやすく、頻繁な再調整が要ります。だから再調整までの期間を延ばすために 「予圧」をかけている、という説明です。
つまり買った直後がいちばん回る状態ではないということになります。 同社は「しばらくご使用いただき、初期の『馴染み』が出ればなめらかに回る様になります」と続けています。開けた瞬間に指で弾いて「思ったより渋い」と感じたとしても、 それは設計どおりです。ここを知らないまま箱の中で判定してしまうのは、もったいないです。
そして「どの製品もひとつひとつ人の手で最終調整を行い検品をしております」。 最上位のシールドベアリングについては、さらに踏み込んで書かれています。 熟練した限られた人間が手組みし、0.03mmから0.2mmまでの数種の極薄スペーサーを 使い分けて、製品ごとのわずかなガタを詰める、と。
回転の良し悪しを数値で比べることはできませんが、何にコストを払っているのかは、この一文で分かります。 0.03mmを選び分ける作業に要るのは、設備よりも人の時間です。
NJS認定は「よく回る」の証明ではありません
実際、SUPREME と RX-1 は最上位のシールドで、Royal Nuevo はカップ&コーンです。 同社は Royal Nuevo について、内面まで高精度に研磨し、 一般的なカップ&コーンより高精度な玉を使うことで「ほとんどの人がシールドベアリングと勘違いするほどスムーズに回転します」と書いています。認定マークの有無ではなく、軸受けの行を見たほうが、中身に近いところを見ています。
どれを選ぶか
ここからは選び方の話なので、こちらの考えを書きます。自分で開けて触りたいなら、カップ&コーンです。 Sylvan Track は専用のキャップスパナでキャップを開ければ玉当たりを調整でき、 補修部品も鋼球・玉押しナット・ダストシール単位で品番が公開されています。 壊れても直せる、という前提で作られているペダルです。
触らずに一番よく回っていてほしいなら、最上位のシールドです。 こちらはメンテナンスフリーで、同社は分解しないよう明記しています。 重量もRX-1が1組281gで、 当サイトが収録しているMKSのトラックペダルでは最軽量です。
踏み面の広さは、回転とは別の軸です。 トラック用の Sylvan Track は W80×L61、街乗り寄りの MASH STREAM WIDE は W94×L63。 スニーカーで乗る時間が長いなら、こちらのほうが体感に効きます。 各モデルの寸法と軸受けはMKSのページに並べてあります。
確かめられないこと
回転抵抗の数値は、どのメーカーも公表していません。だからこの記事も「どれがいちばん回るか」には答えていません。書けるのは、 機構が何か、どこに手が入っているか、メーカー自身が何と言っているかまでです。
他社製品との比較も、同じ理由でしていません。測る方法を持たないまま順位をつければ、 それは根拠のない断定になります。ここに並べたのは全部、メーカーが自分の言葉で公表している内容です。読んだうえでどう感じるかは、実際に踏んでからで大丈夫です。
ペダルのネジ規格は9/16インチ、 組み合わせの可否は互換チェックから確認できます。
出典
- MKS — ベアリングについて(軸受け5分類の一覧)
- MKS — カップ&コーン(ボール)ベアリング(予圧・手作業での最終調整)
- MKS — 高回転性能カップ&コーン(研磨・高精度クロム球)
- MKS — トリプルシールドベアリング(3個で荷重分散・スタックハイト)
- MKS — シールドベアリング&ブッシュ(回転性能は他機構に劣ると明記)
- MKS — 最高級回転性能シールドベアリング(0.03〜0.2mmのスペーサーで手組み)
- MKS — SUPREME(NJS認定・1組294g・W84×L60)
- MKS — RX-1(NJS認定・1組281g・1985年発売)
- MKS — ROYAL NUEVO(NJS認定・高回転性能ボールベアリング)
- MKS — SYLVAN TRACK(補修部品の品番・キャップスパナでの調整)
トルクの数値と、ブレーキに関わる判断は、このページではなくメーカーの指示と整備をする人の判断に従ってください。